抱きしめて、全てが伝われば良いのに。
言葉はとても便利だけど、便利すぎて上手く使えずにもどかしくなることが多い。
感情はとてもシンプルで何よりも確かなものだけど伝わらないことが多いし。
解り合うことはとても難しいね。
傷付けて傷付いて、何度繰り返しても上手くやれないのは、根が不器用だからなのかも知れないな。
いつも、あなたを悲しませてばかりいる気がする。
謝罪をあなたは嫌うから、出来るだけ心がけてはいるんだよ。
ただ、申し訳ないと思うのはこれから先もずっと諦めたくないと思うからなんだ。
気持ちを伝え、分かち合うことを諦めたくない。
その度、あなたには誤解や不安を与えるかも知れないけれど。
俺はもう、あなたに関して何ひとつ諦めたくないんだよ。
本当は、好きだよ、なんていつだって簡単に言えた。
だけどあなたが欲しい言葉は違うと知っていたから、そういえば一度も言ったことがなかったね。
今は、その言葉もやっぱり疑われてしまうのかな。
もしそのことがあなたを不安にさせているのなら、あなたの、あなただけが持つ好きなところをひとつひとつ。
一日中だって挙げることも出来るけど。
そんなのは、やっぱりあなたは嫌がるかな?
「・・・コンラッド」
「はい」
「も、充分伝わりました・・・から」
「から?」
「は、離してくれるかな、そろそろ」
コンラッドの腕に抱きこまれたままで、ユーリは項垂れてそう呟いた。
ふいに背中から回ってきた腕に身を任せてから早十数分。
顔を合わせるよりはマシかと思っていた自分をユーリは海よりも深く後悔していた。
耳元に吹き込まれる声がこれほど恥ずかしいものだと思わなかったと肩を震わせる。
「まだもう少し続きがあるんですけど」
「や、もう本当に十分です・・・」
「不安だったんでしょう?」
「もー悪かったって、マジで!」
「そこで謝るのはどうしてですか、ユーリ?」
「う」
居心地が悪そうに動かしていた肩を固定し、ユーリは肩越しにコンラッドを見上げた。
思いがけず真摯な目が自分を見ていることに気付くと、ユーリは少し躊躇した後で再度、悪かったよ、と言った。
「傍にいてくれることに理由が欲しかったんだ、ずっと。そしたら、不安にならなくて済むと思ったから」
「理由が必要ですか?」
「ううん。これは多分、俺の気持ちの問題なんだよ。コンラッド」
ユーリはそこまで言ってからふっと笑った。
何だだかもう堪らない、とでも言いたげな表情にコンラッドは首を傾げる。
「でも、もう疑わない。・・・ってゆーか、疑えないよ」
「ユーリ?」
「だって、ほっといたらマジで言いかねないんだろ。コンラッドは」
俺の好きなところを、なんて。
そんなの一日中聞いてたら死にたくなるに決まってる。
そう言って、見上げてくる目が申し訳なさそうに、けれど柔らかくはにかむ。
物騒な物言いをしながらも喜色ばんだ口元がとても雄弁で。
コンラッドは壊れ物に触るように頬を寄せ、熱を持った耳に唇をつけてそっと微笑った。
ねぇユーリ、あなたはいつか理解してくれるかな。
誰のものでもない魂が形を取った、あの瞬間の言葉にならない感動を。
あのとき、新しい無垢な生命を宿したあなたに触れたときの気持ちを。
ただ生きようとするあの光が、これまでずっと俺に与えてくれた喜びを。
いつか、あなたに全部伝えられるといいね。
確かにあなたについてまわるものは多くて、そのことを少しも考えないといったら嘘になるよ。
だけど、これだけは信じて欲しいんだ。
一番大切な場面で俺が考えることは、いつだってひとつだということを。
そう、俺があなたを守る理由なんて、何も難しく考えるようなことじゃないんだよ。
この国に君臨する王だから?
それだけでは、任務以外で四六時中あなたのことを考えてしまう理由には足りない。
彼女が、ジュリアが輪廻した魂だから?
それだけでは、俺は今頃過去に囚われて生きる屍同然だよ。
それではちゃんと笑えない。
きっと、こんな風に朝を待ち遠しく生きられなかったと思うんだよ。
例えば試合中、身体が動く瞬間にいちいちそんな難しいことを考えていられる?
ボールを送るべきか、バッターを追うべきか。
その瞬間の判断は、いつだって自分が正しいと思うものを選ぶのが正解だったでしょう。
つまりは、それと同じことなんだよ。
俺があなたのために動くのに、難しい理由はひとつもない。
理屈じゃない、ただそれが正しいと解っているからこの身体は動ける。
傷付いて欲しくないから身体を張るし、寂しい思いをさせたくないから傍にいる。
本当に、たったそれだけのこと。
他に理由が必要かな。
それでも、またいつか不安になったそのときは、遠慮なんかしないで袖を引いて欲しい。
気付けたなら、きっと出来ることがあるから。
言葉にしたらとてもありふれた思いになるけど。
それでも良いと言うなら、ひとつだけ、あなたにはあげたいと思うんだ。
『あなたのことが、とても好きで仕方ないよ』
あなたが信じてくれるまで。
何度だって、囁くよ。
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2005.06.04
待つのは得意だと、そう微笑って。
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