この世界に満ち溢れているのは、光とそれから。
09 あそぶのがとってもすきです
「あーら可愛い光景」
「しーっヨザック。やっと寝たとこなんだよ」
「おっとこれは失礼しました」
ご丁寧に人差し指を唇に当てて見せてから、腕の中をそうっと見下ろす。
壊れ物を扱うような仕草は、遠い昔に見た覚えのあるものだった。
危なっかしい手つきで、とても嬉しそうに小さな身体を抱きかかえて。
彼も同じだった。
慣れない育児に流石に少々疲れた横顔ではあったけれど、笑う顔は何とも楽しげなもので、ついついこちらの頬も緩んでしまう。
「可愛いけど手が掛かるってとこですか」
「まぁなー。でも、手のかからない方だってさ、これでも」
「へぇ。そうなんですか」
「うん。ヴォルフのときはもっと大変だったってコンラッドが」
「・・・そういや、その隊長はどうしたんです?」
まさか陛下と我が子とほったらかしにするとも思えずに辺りを見渡す。
珍しい。
そういえば朝から姿を見かけなかったことに、今になって気が付いた。
「あー・・・うん。ちょっと部屋で休んでもらってる」
「そりゃまたどうして」
「ちょっと、ね」
困った顔で皇子を見る目に、なんとなくピンときてしまった。
寝顔は陛下似の、まるで天使。
どこでどうなって生まれたのかは定かでないが、それでも半分はあいつの血を引いていると考えても良いなら。
「・・・ははーん。早速始まったんですね?」
「? 何が?」
「陛下争奪戦ですよ」
「争・・・」
「まぁでも、遅かれ早かれそうなるとは思ってましたけどね。母親を独り占めしたいのは子供の性ですし。かと言ってあいつがすんなり引き下がるとも思えないし」
「この場合やっぱ俺が母なのか・・・そうじゃなくて、あーどっちかと言うと嫁姑問題のような」
「え。まさか、ツェリ様が陛下を」
「あーやっぱそうなるのね・・・じゃなくて、エスターがさ」
名前を呼ばれて、腕の中の赤ん坊がパチリと目を開く。
しまった、と慌てる陛下をよそに、皇子は寝惚けて危なげな様子もなく、こちらに向かって手を伸ばしてきた。
「・・・俺ですか?」
人差し指を伸ばしてやると、小さな手にきゅ、と握られる。
見返すと、皇子は満面の笑顔を浮かべていた。
「これまた、随分人なつっこいことで」
「助かったよ、ヨザック。最近俺達だけじゃ手に負えなくて」
「? こんなに大人しいのにですか」
小さな手が上下するのに合わせて人差し指を動かしてやりながら、尋ねる。
「何か最近反抗的っていうか・・・」
「へぇ」
「執務中はコンラッドに面倒見てもらってるんだけど、そうするとこいつ本気で隠れようとするからさー。今日は俺がさっさと寝かしちゃおうと思ったんだけど」
失敗、とさほど困ってないような顔で呟いてから、陛下は皇子と俺を見比べて肩を竦めた。
「グリ江ちゃんには素直に懐くのにな」
「人徳かしらん」
「興味深いんじゃないかなー・・・うん、ホラ今も女装だし」
「まぁ、失礼しちゃう。・・・てことは、隊長は今」
「部屋で静かに落ち込んでる。」
でも、と彼は小さな身体を抱き直す。
頬がくっつくほど近くに、内緒話をするように顔を近づけた。
「お前も、ほんとはコンラッドのこと大好きだもんな」
そう言って、まるで年齢にそぐわない顔をする。
一瞬はっとしてしまうような、大人びた表情で。
こんなに当たり前に愛を語る人を、これまでに知らなかった。
だから、眩しいと思う。
ほんの一瞬の瞬き。
「もう少し解りやすくしろよエスター。あれじゃ解っててもコンラッドが可哀想だろ?」
「それは仕方ないですよ。何でかあいつの血縁者は素直じゃないのが多いんです」
「あ。それは言えてる」
しかめっ面の長男と、いつでも喧嘩腰な三男坊を思い出してこそりと笑う。
「でもさ?相当愛しちゃってるよな。間違いなく」
「ああ、それはもう」
傍から見れば丸解りの事実を、彼らは認めたがらないだろうけれど。
当の本人はそれを重々承知しているだろうが、それでも大抵の想像は真実を超えない。
「だけどまだまだ、甘く見積もってますよね」
暖かい場所が似合うようになった。
思うよりずっと沢山の光を浴びてきた。
それは、例え影が差しても消えない太陽が此処にあるからに他ならない。
「変なとこ謙虚なんだよ。よっし、やっぱ許す。虐めてきてやれエスター!」
陛下はそう言って我が子を高く持ち上げた。
人差し指が離れる瞬間、少しだけ残念な気持ちになる。
此処は、やはり居心地が良かった。
物騒な発言にもかかわらず彼は嬉しそうに頬を緩め、嬉々として両手を叩く赤ん坊はただ父親の元に行くのを喜んでいるように見える。
光に満ちた、世界。
「いいんですかー?陛下。そんなこと言っちゃって」
また、あいついじけますよ。
少しの意地悪を言うと、彼は笑って我が子と目を合わせた。
想像してしまったのか、くすくすと楽しそうに口角を上げる。
「大丈夫だよ、ヨザック」
高い空の上、太陽を背負った彼は。
「愛があるから、だいじょーぶ!」
この世界に、満ち溢れているもの。
だからこの世界はまだ大丈夫。
この場所は、陽の当たる場所でいられると知る。
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2005.12.31
だけどきっと、その後のフォローは怠らないんだと思う。
これにて担当終了です。
遅くなってしまってすいませんでした・・・!
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