もう、謝っても届かない。
こんなに近くにいるのに、もうどんな言い訳さえも届かない。








「・・・言い訳もしないのかよ」


見上げた先でユーリは酷く辛そうな笑顔を見せた。
きっと、本当は笑いたいのではなく泣きたいのだろう。
それをしないのは、皮肉なまでの彼の育ちの良さの所為だ。


「なぁ、コンラッド。アンタはそれでいいの?」


こんな状況でなければ胸倉を掴んで揺さぶってやりたいのに。
そんな焦れたような表情で覗き込んでくるユーリにコンラッドは薄く笑みを浮かべた。
そうしてくれても一向に構わない。
壊れ物を扱うように恐る恐るとした仕草は何よりもあなたに似合わないものだというのに。


「今言い訳しないんだったら、俺はずっとアンタを信じられないままだ。・・・アンタは本当にそれでいいのかよ・・・!」


重力に逆らえなかった涙がひとつだけパタ、とコンラッドの頬に落ちる。
熱い涙、だ。
コンラッドは涙のひとつも拭えない己の手を酷く憎らしく思いながら、幼い泣き顔を見上げて微笑んだ。


「ユーリ、泣かないで」

「誰の、所為だと・・・ッ」

「俺の所為だと自惚れてもいいんですか?」


一粒の涙は嗚咽の呼び水となって。
噛み締めた唇からは息の漏れる音しか聴こえない。
笑った顔の方が好きだな、そう思いながらもう二度とは見られないかも知れない表情を目に焼き付けてしまおうと、既に霞みかけたこの目は未だ貪欲に彼を求め続ける。
あまり、時間はないかも知れない。
そう思いながら荒くなりそうな呼吸を宥め、


「ユーリ、今、言い訳を聞きたいですか?」


ぎっ、と向けられた目は涙で黒く濡れていた。
煽情的なそれに、コンラッドは熱い息を呑み込む。
今更、惜しいと思うのだ。
彼の傍を離れることを。
彼をひとりにしてしまうことを。


「・・・じゃあ、約束を、しましょうか」


期待を隠せず見返してくる目に。
頬に触れる小さな手に。
大きすぎるものを背負っているその背中に。

たったひとつ、約束をしよう。


「次に目を開けるとき、俺はもう二度とあなたの傍を離れないと誓います。どんな理由があろうと、・・・もう二度と、あなたの心を裏切ったりしない」


思いがけない言葉だったのか、拍子抜けしたように口を開けたままのユーリの目から、涙の粒が数滴降り注いだ。
コンラッドはゆっくりと目を閉じ、祈るように呟いた。



「約束するよ、ユーリ」















13.約束をしよう、それはとてもはかないものかもしれないけど


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2004.09.23
あまりにも優しすぎて、かえって残酷な傷をつける男だと思う。


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