決して消えることのない光は、今もなお、この胸に。
見上げれば目に痛いほどの青空。
なのにどこか穏やかな陽射しは、まるで近くにおいでと手招きをしているようだ。
本日もお日柄良く。
ウェラー卿コンラッドは満足げに頷き、足元、正確には木の幹に凭れて眠っている主君の下に跪いた。
午睡にしては早い時間なのだが、思えば今朝は珍しく自分が起こすよりも先に目覚めていたようだったし、重ねてこの陽気では仕方ないことかも知れない。
コンラッドはユーリの額にかかる漆黒の髪を払いながら、先ずは小さな声で呼びかけた。
「陛下、へーいーかー。そろそろ戻らないとギュンターとヴォルフがタッグ組んで探しに来ちゃいますよ?」
その言葉にう、と眉間に皺が寄るのを見て、耐え切れずコンラッドは吹き出した。
夢の中に特別出演でもさせてしまったのだろうか。
「陛下、起きて下さい。陛下」
「・・・コン、?」
ようやく意識が浮上してきたのか、ユーリはうっすらと目を開け、眩しそうに目を細めてコンラッドの姿を認めたようだった。
「おはようございます、陛下」
「おはよ、コンラッド・・・何かさ、俺すっげヤな夢見たような気がすんだけど」
「ああ、それもしかしなくても俺の所為かも」
「へ?」
「いや、こっちの話」
にこり、と人好きのする笑顔で微笑まれては追求も出来ない。
ユーリはまぁいっか、と組んだ両の手を頭上へと伸ばした。
「・・・つーか、アンタそれ何回言えば直るわけ?」
欠伸を噛み殺した涙目で、ユーリはコンラッドを睨む。
「それ?」
「今度「陛下」って呼んだら罰ゲーム!とかやっちゃう?」
コンラッドは口を押さえ、苦く笑った。
寝起きでもキチンと聞き分けているユーリにはただただ感服するしかない。
「すいません。つい」
「それも何回聞いたかなー」
名付け親のくせに。
そう言ってふい、と顔を背けてしまったユーリに、コンラッドは小さく咳払いをしてみせる。
これはもう儀式のようなものなのだけれど。
「ユーリ。そう拗ねないで」
「拗ねてない!」
ムキになって振り向く顔はもうお馴染みのもの。
なのに、策に嵌ったと気付いて口惜しがるユーリは何度見ても飽きない。
不謹慎にも込み上げてくる笑いを噛み殺しながらコンラッドはそう思うのだった。
我が主君は呼称における身分差の誇示は好きではない。
と、いうよりも身分差の存在自体がお気に召さないらしい。
日本育ちの彼を順応させるために様々な努力はしてきたつもりだったが、こればかりはどうにも覆しようがない。
そう素直に申告すると、渋々ながらも頷いてくれたユーリだったが、その代わりと出された妥協案がひとつ。
「名付け親が名前呼ばなくてどーすんだよ」
まぁ確かに理屈は通っている。
そう頷きながらも、そこには単に気恥ずかしいから、という理由も大いに反映されているであろうことを思い、コンラッドは毎回そっと笑みを漏らすのだった。
「・・・何笑ってんだよ」
「いえ、別に。でも、俺だって同じ気持ちなんですよ?」
きょとん、と目を瞬かせたユーリを見やって先に立ち上がると、コンラッドは促すように手を差し伸べた。
不思議な顔をしつつそっと重ねられた手を掴み、軽い身体を立ち上がらせる。
「同じ気持ちって、何で?」
「名前は特別だから。正直、初めは俺も名付け親っていう立場に少し戸惑いました」
期せずして名付け親になってしまっただけに、それは一入。
生まれてくることだけに頓着していた当初は、単に思いつきで話を振ってしまったことがこうも形となって表れるとは流石に思いもしなかったのだ。
「ふぅん?」
ユーリはそんなもんかなぁ、と気の抜けた相槌を打って再度身体を伸ばした。
ぐん、としならせた背中が綺麗にアーチを描く。
そのとき、まだ完全には覚醒しきっていないのか少しお覚束なかった足元がフラリと揺れた。
「おっと、」
バランスを崩す直前で背中に腕を差し入れたコンラッドの顔を見て、ユーリは僅か沈黙し、次いで口を開いた。
「でもさ、コンラッド」
「はい」
不安定な姿勢のまま、ユーリはにぃ、と酷く誇らしげに笑って。
「俺としては、「陛下」なんて呼び名よりはずーっと気が利いてると思ってんだけど?」
どうだ!と言い切られた言葉に、流石のコンラッドも得意の笑みを引かせて固まってしまう。
本当に、敵わない。この人にだけは。
「・・・降参です」
けれど、この世で負けても良いと思える人がいるということは、存外に悪くない。
やられました、と空いた片手で降参の意を示す他に出来ることのない自分を笑いながら、そんなことを思うのだ。
「なぁコンラッドー」
「何でしょう?」
「名前、呼んで」
日頃の意趣返しのつもりか、ユーリは意地悪く笑ってコンラッドを見上げている。
コンラッドはそんな主君を見て苦笑いを浮かべながら、命令ですか?と尋ねてみる。
「まさか」
「ですよね」
それなら、とコンラッドは微笑む。
「あんまり連呼するとギュンター辺りが煩いし。ふたりのときは、なるべく気をつけることにしますよ。・・・陛下」
む、と顔を顰めたユーリに、ギュンターとヴォルフラムがほぼ同時に抱きついてくるのは、その数秒後のこと。
色々複雑なんだよ、ユーリ。
例えば、名前を呼ぶだけでこんなにも満ち足りた気分になるのはどうだろう。
名前はその人自身を表すから。
だけどきっとそれだけじゃないんだ。
俺は、少し自惚れてしまっているのかも知れない。
だから、あまり何度も呼ぶことは出来ない。
そのことは 少しだけ残念に思うけれど。
日本での「ゆうり」という言葉が意味あるもので良かったと心から思う。
勿論、他の名前で巡り会ったとしても俺の願いは変わらなかっただろうけど。
だけど、こんなにも幸せな気持ちにはきっとならなかったと思うんだ。
ねぇ、ユーリ。
俺は、名前通りに育ってくれた貴方を誇りに思うよ。
強く真っ直ぐに育ってくれた貴方を、誰よりも愛しく思っている。
願わくば、その先の未来が貴方にとって幸多きものであるよう。
貴方の思う通りの未来が訪れますよう。
名前を呼ぶ度、願って止まないんだ。
例え運命が許さなくても、誓うよ。
俺の全ては、貴方と共に在ることを。
他の誰でもない、貴方に、誓うから。
だから、少しだけ。
俺の我侭を、赦して欲しいんだ。
18.あなたという人が、自分
だけのものになればいいのに
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2004.09.08
コン→ユが理想。でも、お互いが大切に思ってるのがいいなと。
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